2015年5月21日木曜日

野鳥貸家 お葬式

あれ?親鳥が巣箱に入ってゆかない。貸家の玄関から部屋を覗いて、そのまま去ってゆく。このようなことが繰り返され、大家である私は不審に思った。そのくちばしに芋虫はない。また、芋虫をくわえた父鳥か母鳥が来ても、近くの枝にとまって、いつまでも巣箱に入る様子は無い。

何があの中で起きたのか、また起きつつあるのか・・・。私は蛇を疑った。もしかして蛇が入ったのではないだろうか。蛇が雛をすべて丸呑みにした結果、狭い玄関から出られなくなったのではないだろうか。

それでも私は彼らの無事に一縷の望みをかけて二日間待った。その間に様々な推測が頭に去来する。例のオオスズメバチ?でもあの後、親鳥たちは普段どおりに芋虫(実際には芋虫だけではないだろうが)を運び続けた。スズメの特殊部隊がとうとうダイエットに成功して、あの狭い玄関から中に突入したか?

実は私の野鳥貸家はここだけではない。もうひとつ、庭の東にある木に、すばらしい外観と住み心地の貸家別館がある。これは佐久御用邸野鳥貸家意匠大賞を受賞した優れものである。(出品数2点、審査員・・・わ・た・し ^^;)この貸家にもシジュウカラの夫婦が入っていて、時々私は観察しているが、どうもいけない。親鳥が芋虫を運んでくるたびにスズメが彼らを脅しつけている。結果、それほど頻繁には親鳥がこなくなってしまった。心配である。それにつけてもスズメの凶暴なことよ。

今回、シジュウカラの営巣が失敗に終わったとしても、昨年の例から考えれば、再度誰かが私の貸家を訪れる可能性はある。私は、貸家清掃のため、これを木から下ろし、解体することにした。

蛇が中にいることが予想されるので、床板の螺子をはずした後、恐々隙間から中を覗いた。蛇はいなかった。そっと全開にすると、親鳥の雛たちへの愛が見えるような巣が現れた。床から5洋寸(cm)ほどびっしりと苔をしき、中央にまるく凹みを作って、そこに獣毛と思われる白いものが、これもびっしりと敷き詰められていた。

雛が二羽死んでいた。私の親指の先くらいの大きさになっていたが、目は開いていない。頭頂部に僅かだが、産毛が生えているだけ。肌色の小さな塊である。各々の頭部に大きな灰色の丸がふたつある。あと幾日もしないうちに、ここが開いて目となり、彼らはこの世の景色を見るはずであった。くちばしは、二羽ともうす黄色で、閉じていた。胃には何も入っていないようだ。

腐敗もせず、アリにもやられておらず、巣ごとゆすると意外にも彼らの頭は揺れた。揺れても、彼らの目が開くことは無く、くちばしも閉じたままだった。

ため息をひとつつき、私はショベルを持って、貸家のあった木の根元に小さな穴を掘り、そこに巣ごと彼らを埋葬した。

佐久御用邸でのお葬式はこれで二度目である。最初は、オオルリであった。二年ほども前だったろうか。見るも鮮やかな青い色をした、スズメより少し大きな鳥が、来客用の部屋の窓の外に横たわっていた。おそらく窓の硝子にぶつかり、首の骨でも折ったのだろう。死んでなおその青色は鮮やかだった。
台所から調理用の紙(kitchen paper)を持ってきて包み、庭の片隅に穴を掘って埋葬した。
(墓標も建てたように思うが、既にそれは無く、場所もどこかは忘れた。これでいいのだ。)

貸家の中を刷毛で掃除をしながら、はたと思い至ったことがあった。今、お隣のS邸ではご主人が、薪小屋の改修中で、屋根に上って電動螺旋回し(impact driver)を使っている。大きな音である。そう言えば、昨年の初夏、シジュウカラの営巣中にS氏が、刈り払い機で雑草を刈りながら巣の近くまで来た。私は事情を話してその作業を中断して頂いたのであった。

これだ。我が野鳥貸家からお隣の薪小屋までは、ほんの5~6洋尺(m)である。ここ数日この作業が続いていた。雛たちの胃が空だったのはこれで説明がつく。残念だが、しようがない。

お隣の薪小屋改修工事は二期目の最終段階にある。これから私は野鳥貸家に若干の改装を加えて、また木に戻すつもりである。野鳥たちよ、たくましくあれ、と願いつつ。

佐久御用邸野鳥貸家意匠大賞受賞 野鳥貸家別館

2015年5月15日金曜日

野鳥貸家 大変だー

昨日「野鳥貸家 2」を上梓(?)し終わってすぐのことであった。寝室の窓から貸家を眺めていたら、大きな蜂が飛んできてその玄関にとまった。

私は、ここ数日の間、近所でオオスズメバチを複数回目撃している。少し大袈裟に言えば、その大きさは私の親指に羽を付けたほど大きい。周囲を威嚇するかのように羽音を響かせて飛び回っている。獲物を探しているのか、また巣となる場所を物色しているのかは知らない。

昨年はキイロスズメバチが近くの舗装路にある四角いマンホールの穴に巣を作り、お隣のS氏が別荘の管理会社に連絡、ほどなく殺虫スプレーですべて退治された。一昨年はそのS邸の軒下に直径50洋寸(センチメーター)ほどの見事な巣を作り、近所を怖がらせた。(蜂たちが出て行った後に、昨年スズメが巣を作ったことは前回の「野鳥貸家 シジュウカラ先生、スズメ先生」に書いた)

件(くだん)のスズメバチは、貸家の玄関から中を覗いている。緊急事態ハッセイ。私は大急ぎで居間にあった双眼鏡を手に戻って、それを目にあてた。まだ中を覗いている。私は、早くシジュウカラの親が戻って来、この事態の回避されることを願った。心の中で、早く、早くと、もどかしく思っていたら、ついにスズメバチは貸家の中に入ってしまった。

生き物に獰猛なものなど無い。人食いザメだって、キングコブラだって獰猛なわけは無い。言葉と言うものは人間の発明なので、人間の都合で勝手に使う。ロットワイラーだって、コモドドラゴンだって凶暴なわけは無いのだ。動物界に例外はただ二種、人類とオオスズメバチである。我が野鳥貸家に押し入った暴漢は、オオスズメバチに違いない。

獰猛、残忍かつ凶暴凶悪なオオスズメバチの武器は、強力な毒針とあごらしい。孵化直後のシジュウカラの雛など、彼らから見れば、おいしそうなご馳走に違いない。雛はまだ羽毛もそろわず、動きもままならないはず。目も開かず、大きな黄色い口ばしで親鳥にエサをねだるだけの存在である。今なら大きさもスズメバチと大差ないだろう。私の脳裏には貸家の中の惨劇が浮かぶ。オオスズメバチは、無抵抗な雛に毒針を使う必要はない。いきなりあの強力な大あごで、雛を自分が巣に運べる大きさに噛み切るに違いない。

やきもきしている時の時間の長さと言うものは、それは長く感じる。実際それでも数分は経ったであろうか。一羽の親鳥がエサをくわえて帰ってきた。それがオスなのかメスなのかはわからない。胸前のネクタイの太いのがオス、細いのがメスだと言う。ただ、大家としては、ツガイがそろった時でなければ比較判別は難しい。ともかく一羽帰ってきた。玄関の前の枝にとまり、周囲を窺っている。これはいつもの行動である。私は、一秒も早く中に入って雛たちを救ってくれるよう願ったのだが。

数秒の後、親鳥がエサをくわえたまま玄関から中を覗いた。中の異常に気が付いたのだろう、すぐには入らない。やがて親鳥は玄関を離れ、近くの枝にとまった。エサはまだくちばしにある。それなりに考えている様子が窺える。

野鳥貸家の大家は考えた。あの狭い空間で、シジュウカラがオオスズメバチと戦って勝てるものだろうか・・・。大あごはともかく、オオスズメバチの毒針を受けたらシジュウカラは助からないだろうと思う。

長考の後、意を決して親鳥は巣の中に入っていった。中で何が起きているのかはまったくわからない。勝負は一瞬でつくのではないだろうか。もし、シジュウカラがハチとの戦いに慣れていて、毒針をうまくかわすことができれば、勝算は大きい。

ヤマガラが直接私の手からヒマワリのタネをもってゆくことは以前書いた。以来私は、時としてヒマワリのタネを掌中に隠してヤマガラを誘う。彼らはやってきて、私の手のひらを調べ、わずかに見えているヒマワリのタネを引っ張り出そうとする。これに失敗すると、タネを隠している私の指を突っつき始めるのだ。飛び上がるほど痛いわけではないが、それでもよく見てみると、ついばまれたところに小さく血が滲んでいるのだ。(下の動画をドウガ見てください^^;)

彼らの「つっつき」はそれほど強力である。シジュウカラもこの点は同じはずである。オオスズメバチといえども、毒針さえかわせれば、何ほどのことがあろうか。

数分の後、親鳥が玄関から出てきた。無事な親鳥を見て、私はほっとしたが、そのくちばしにオオスズメバチはない。確か、ハチは死んでも、しばらくは針の機能は生きていると聞いた。大丈夫なのだろうか。

今日も我が野鳥貸家の店子たちは元気に巣箱にエサを運んでいる。よかった・・・。


             数年前に撮ったオオスズメバチの死骸写真。私の人差し指と比較されたい。



                    おまけ・・・ヒマワリのタネを手のひらの中に隠し、ヤマガラに・・・。



2015年5月14日木曜日

野鳥貸家 2

ここ佐久の御用邸も一昨日の台風を無事やリ過ごして、今日は文字通り初夏の好日となった。

2週間ほど前に、南にあった薪小屋を解体した。幾星霜と言えば大げさだが、数年の間薪小屋として使ってきたが、ついにその役目を終えた。屋根材を安く上げるために、色々工夫を重ねたが、限界を超えた。雨漏りが激しく、用をなさない。

金属や樹脂製の波トタンを張ればよかったのだが、農業用のマルチと呼ばれる真っ黒な薄いシートを張った。使い古しの合板の屋根に、雨さえ防げればよいのだとこれを張った。数ヶ月の洋行から帰って私が見たものは、切れ切れになって風にたなびくマルチの無残な姿だった。元より骨組みもまったくの有り合わせで作った。薪が一杯に入っているときは、薪と天井の間に車用のジャッキをかませて屋根を支えた。小屋が傾き始めるとそこいらにあった太目の木の枝などでつっかえ棒をしており、見苦しさでは天下の一級品であった。

一昨年の1mに近い積雪や、あまたの台風にも耐えて来たのだが、取り壊しを決行した。とは言え、近いうちに薪小屋を兼ねたあずま屋を建てようと思っている。優美にして堅牢、安価にして便利なものにするつもりである。中に手作りの木製の椅子と食卓を置いて、お茶を飲んだり、野鳥を観察したりするのである。

そう言えば、今年も野鳥貸家に店子(たなこ)が戻ってきた。昨年と同じくシジュウカラである。貸家は昨年のうちに分解清掃しておいたものだが、今年はやけにスズメが我が野鳥貸家に固執していた。スズメは入れない玄関にしておいたはずだが、ついには出入りを始めた。(彼らダイエットでもしたのだろうか@@)玄関の寸法は昨年と同じはずであるのに・・・。

あまりのスズメの図々しさに私は重い腰を上げた。四角い合板の真ん中をくり貫き、玄関の寸法を28mmから27mmほどに狭めて塗料を塗り螺子でとめた。これからがおかしかった。スズメが昨日と同じように我が貸家に入ろうと頭を入れる。が、それ以上胴体は入らない。どうしても入らない。何回も試みるのだが、入らない。同じスズメかはわからない。でも、これを彼らは日中何回も繰り返したのである。私は見ていた。おかしさと、ザマーミロと、少しの同情をもって観ていたのである。

実際この1mm前後の間の寸法が彼らには大きいのである。やって来たシジュウカラにもこの寸法は狭いらしく、しきりに間口を広げようと、キツツキのようにコンコンやっていた。気の毒におもうが、仕方なし。

つい数日前よりシジュウカラのつがいが交互に出入りをするようになった。シジュウカラはメスだけが巣作りをするそうで、オスメスが交互に出入りをするということは、既に中に卵があり、孵化しているということである。先ほど双眼鏡で覗いてみたら、どちらも口ばしに虫をくわえている。

一方、庭の東にかけた巣箱には誰も借り手が現れない。冬の間、シジュウカラとスズメが交互に訪れていたが・・・。(こちらはスズメは入れなかった)この玄関の寸法だと利用できるのは、シジュウカラ、コガラ、それにヒガラのみだと思われる。これ以上小さな野鳥は日本にはいないらしい。

なにか他にも書くことがあったような気がするが、思い出せない。

いつも私のブログを読んで下さっている海外と日本の方々、頑張ってください。そして頑張らないで下さい。

                (あら、怪しいオヤジが見てるわ。気をつけなきゃ)