何があの中で起きたのか、また起きつつあるのか・・・。私は蛇を疑った。もしかして蛇が入ったのではないだろうか。蛇が雛をすべて丸呑みにした結果、狭い玄関から出られなくなったのではないだろうか。
それでも私は彼らの無事に一縷の望みをかけて二日間待った。その間に様々な推測が頭に去来する。例のオオスズメバチ?でもあの後、親鳥たちは普段どおりに芋虫(実際には芋虫だけではないだろうが)を運び続けた。スズメの特殊部隊がとうとうダイエットに成功して、あの狭い玄関から中に突入したか?
実は私の野鳥貸家はここだけではない。もうひとつ、庭の東にある木に、すばらしい外観と住み心地の貸家別館がある。これは佐久御用邸野鳥貸家意匠大賞を受賞した優れものである。(出品数2点、審査員・・・わ・た・し ^^;)この貸家にもシジュウカラの夫婦が入っていて、時々私は観察しているが、どうもいけない。親鳥が芋虫を運んでくるたびにスズメが彼らを脅しつけている。結果、それほど頻繁には親鳥がこなくなってしまった。心配である。それにつけてもスズメの凶暴なことよ。
今回、シジュウカラの営巣が失敗に終わったとしても、昨年の例から考えれば、再度誰かが私の貸家を訪れる可能性はある。私は、貸家清掃のため、これを木から下ろし、解体することにした。
蛇が中にいることが予想されるので、床板の螺子をはずした後、恐々隙間から中を覗いた。蛇はいなかった。そっと全開にすると、親鳥の雛たちへの愛が見えるような巣が現れた。床から5洋寸(cm)ほどびっしりと苔をしき、中央にまるく凹みを作って、そこに獣毛と思われる白いものが、これもびっしりと敷き詰められていた。
雛が二羽死んでいた。私の親指の先くらいの大きさになっていたが、目は開いていない。頭頂部に僅かだが、産毛が生えているだけ。肌色の小さな塊である。各々の頭部に大きな灰色の丸がふたつある。あと幾日もしないうちに、ここが開いて目となり、彼らはこの世の景色を見るはずであった。くちばしは、二羽ともうす黄色で、閉じていた。胃には何も入っていないようだ。
腐敗もせず、アリにもやられておらず、巣ごとゆすると意外にも彼らの頭は揺れた。揺れても、彼らの目が開くことは無く、くちばしも閉じたままだった。
ため息をひとつつき、私はショベルを持って、貸家のあった木の根元に小さな穴を掘り、そこに巣ごと彼らを埋葬した。
佐久御用邸でのお葬式はこれで二度目である。最初は、オオルリであった。二年ほども前だったろうか。見るも鮮やかな青い色をした、スズメより少し大きな鳥が、来客用の部屋の窓の外に横たわっていた。おそらく窓の硝子にぶつかり、首の骨でも折ったのだろう。死んでなおその青色は鮮やかだった。
台所から調理用の紙(kitchen paper)を持ってきて包み、庭の片隅に穴を掘って埋葬した。
(墓標も建てたように思うが、既にそれは無く、場所もどこかは忘れた。これでいいのだ。)
貸家の中を刷毛で掃除をしながら、はたと思い至ったことがあった。今、お隣のS邸ではご主人が、薪小屋の改修中で、屋根に上って電動螺旋回し(impact driver)を使っている。大きな音である。そう言えば、昨年の初夏、シジュウカラの営巣中にS氏が、刈り払い機で雑草を刈りながら巣の近くまで来た。私は事情を話してその作業を中断して頂いたのであった。
これだ。我が野鳥貸家からお隣の薪小屋までは、ほんの5~6洋尺(m)である。ここ数日この作業が続いていた。雛たちの胃が空だったのはこれで説明がつく。残念だが、しようがない。
お隣の薪小屋改修工事は二期目の最終段階にある。これから私は野鳥貸家に若干の改装を加えて、また木に戻すつもりである。野鳥たちよ、たくましくあれ、と願いつつ。
佐久御用邸野鳥貸家意匠大賞受賞 野鳥貸家別館