早めに寝室に入り、読みかけの本を開いたが、数行読む間もなくまぶたが重くなった。本を枕元に置き、すぐに寝入ることができそうだった。湯を早めに浴びたので、体が冷え始めてでもいたのだろうか、実際にはなかなか眠りはやってこなかった。気長にまぶたを閉じていた。
ようやくそれが訪れようとしていたときに、外から甲高いけものの声が聞こえてきた。
ここに越してきて以来、寝る前に時々庭に餌をほおっておく。それは、ニンジンであったり、リンゴの芯であったり、古くなった鶏肉だったりした。そしてある時はテンが、ある時は狸が、リスが、ネコがやってきた。
ああ、外に何かが来ているなと、鈍くなった意識の中で思った。眠気を易々と払いのけ、上半身を起こした。そのままカーテンをそっと開けると、ベランダの向こうにキツネが来ていた。先ほどガラス戸から投げた古くなった菓子パンを漁っている。もうあの妙に甲高い声は、あげていない。明るい満月の雪原とは言え、逆光になっているので、キツネの黒い影はただ雪にじゃれついているようにも見える。
南東の浅い方角に大きな、寒々とした黄色い月があり、白い雪の庭には木々の陰が落ちて交差している。その中に一尾のキツネの影が無心に餌を食べている。
キツネと話がしてみたかった。
部屋の中から窓ガラスを小さくたたいた。キツネは気がつかない。少し大きくたたいた。キツネは一瞬間、辺りを見回したが、すぐに食事に戻った。
私は、心の中でキツネにお休みを言ってまた布団をかぶった。
※ 写真は今撮ったものです。
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