2015年2月6日金曜日

月下の雪キツネ

二日前の晩のことだった。満月だった。庭は、すっかり根雪に覆われて一面の白であった。月の光を反射してのことで、明るさは昼のそれとはまったく別の種類のものであった。居間の電気を消し、ガラス戸を通してみるその空間は、冷え切った大気に暗い透明な青を溶かし込んだような色合いに見えた。

早めに寝室に入り、読みかけの本を開いたが、数行読む間もなくまぶたが重くなった。本を枕元に置き、すぐに寝入ることができそうだった。湯を早めに浴びたので、体が冷え始めてでもいたのだろうか、実際にはなかなか眠りはやってこなかった。気長にまぶたを閉じていた。

ようやくそれが訪れようとしていたときに、外から甲高いけものの声が聞こえてきた。

ここに越してきて以来、寝る前に時々庭に餌をほおっておく。それは、ニンジンであったり、リンゴの芯であったり、古くなった鶏肉だったりした。そしてある時はテンが、ある時は狸が、リスが、ネコがやってきた。

ああ、外に何かが来ているなと、鈍くなった意識の中で思った。眠気を易々と払いのけ、上半身を起こした。そのままカーテンをそっと開けると、ベランダの向こうにキツネが来ていた。先ほどガラス戸から投げた古くなった菓子パンを漁っている。もうあの妙に甲高い声は、あげていない。明るい満月の雪原とは言え、逆光になっているので、キツネの黒い影はただ雪にじゃれついているようにも見える。

南東の浅い方角に大きな、寒々とした黄色い月があり、白い雪の庭には木々の陰が落ちて交差している。その中に一尾のキツネの影が無心に餌を食べている。

キツネと話がしてみたかった。

部屋の中から窓ガラスを小さくたたいた。キツネは気がつかない。少し大きくたたいた。キツネは一瞬間、辺りを見回したが、すぐに食事に戻った。

私は、心の中でキツネにお休みを言ってまた布団をかぶった。

                ※ 写真は今撮ったものです。