2011年5月1日日曜日

太郎うさぎ

春がきた。日の出はますます早くなり、日の入りはますます遅くなる。斜向かいの鈴木さんのしだれ桜もその蕾を濃いピンクにふくらませて満を持している。
長野では梅も桜も水仙も、辛夷もレンギョウもユキヤナギも一斉に咲く。

4月の中頃の早朝のことであった。いつものように人目を避けて日の出直後くらいに散歩に出かけた。よく整備された別荘地ではあるが、早春のこの時期はさすがに人の気配は稀である。東進すれば太陽は出ているが、その位置はまだ低く、近場の森に阻まれてばらばらになった光の筋を投げかけてくる。

いつものコースをたどって、その折り返し地点まで来た時である。30mほど前方の舗装道路に小動物の影があった。私は東に向かっているので、その影はオーバーに言えば逆光の中にあった。痩せた中型のテリヤのように足の長さが目立った。それは立ち止まっており、逃げようともしない。私のほうが先に気がついたようなので、私は路上で足を止め、息をひそめた。早朝散歩では時々動物と遭遇する。と、その影は私のほうにひょこひょこと跳ねるようにやってきた。私はそれがうさぎだと気がついた。確かにうさぎである。長い耳を立て、毛を夏用のそれにかえてやってきた。目前数メーターでうさぎは私に気が付き、歩みを止めた。真っ黒な黒曜石のような目で私を見つめていた。面白いことに、私にはうさぎの動揺が見えたような気がした。3秒も見つめ合っていただろうか、うさぎは道の左手の藪の中に入っていった。

ここに来て早くも一年と8ヶ月になるが、数々の動物に遭遇した。シカ、キツネ、テン、タヌキ、モグラ、ジネズミ、ヤマカカシ、アオダイショウ、シマヘビ、ヒキガエル、ニホンカモシカなど。鳥などはこのところ毎日庭に来るアカゲラやヤマガラをはじめ、数えきれない。しかし、うさぎだけはその足跡しか見たことがなかった。

私がうさぎで最初に連想するのは不思議な国のアリスの、あの懐中時計をもった白いうさぎであるが(なぜか因幡の白兎ではなかった)、散歩の途中で見たのは絵本のピーターラビットにそっくりであった。が、ここは日本、あれは太郎うさぎだったのだ。

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